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航空自衛隊が誇る基地グルメ「空上げ」を知っているか - メシ通

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写真提供:航空自衛隊

陸上自衛隊といえばミリ飯、海上自衛隊ならカレー。いずれも各自衛隊の食文化を代表するものです。

では航空自衛隊の定番料理は?

……実はなかったのです、これまでは。陸自のミリ飯についての本が出版されたり、海自カレーのイベントが大盛況だったりと、スポットライトを浴びる陸・海自衛隊の「食」を、空自は長年じっと見つめ続けてきました。

そしてついに「定番料理を作り、空自統一の食文化として普及させる!」と立ち上がったのです。

その定番料理とは……老若男女、万人に愛されるアイテム、

唐揚げ。

全国の基地内の隊員食堂で提供されている唐揚げに「空上げ(からあげ)」の文字を当て、基地ごとに個性あふれるオリジナル空上げを提供するようになりました。

各基地の空上げとそのレシピは空自のサイトに公開されています。

www.mod.go.jp

今回は静岡県にある浜松基地の協力を得て、浜松基地版「空自空上げ」が誕生するまでの経緯や、実際の調理の現場まで取材させていただきました。基地の厨房にお邪魔してきましたよ!

空自発祥の地、浜松基地

浜松基地を訪れた日は、年に一度の航空祭、「エアフェスタ浜松2019」の前日。

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管制塔から基地の全景を見せてもらいました。この日はフライトが少ないので、管制員も最少人数です。

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ちなみに翌日はこの人、人、人! 

約8万人の来場者がありました。

空上げ作りの現場に行く前に、第1航空団副司令の井口裕康1等空佐(下写真)にお話を聞きました。

井口1佐、よろしくお願いします!

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井口さん:浜松基地は航空自衛隊発祥の地であり、初めて航空団が置かれたところでもあります。基地設立の頃からパイロットや整備員を教育する部隊などが所在し、現在も航空自衛隊における教育の中心地としての役割を担っています。特にパイロットにとっては第1航空団で空自パイロットの証であるウィングマークが授与されるとあって、戦闘機パイロットとしての第一歩を踏み出す節目となる基地です。
また、浜松基地には空自唯一の広報施設であるエアーパークがあり、多くの方が来訪しています。

www.mod.go.jp

飛行機好きの筆者としては、陸海空自衛隊の広報施設の中でこのエアーパークがいちばん好きです。入場無料!

井口さん:私は昨年、那覇基地からこの浜松基地に異動してきました。浜松勤務は初めてで、住み心地のよさを満喫しています。海にも山にも近く、政令指定都市だけあってほどよく都会で活気があり、うなぎや餃子といったブランド化されたグルメにもこと欠きません。当然、浜松基地の隊員食堂で提供される給食もおいしいですよ。これは栄養士さんと給養員(※調理を担当する隊員)の食への意識が高く、どうすれば隊員によりおいしく食べてもらえるかを常に考えてくれているからだと思います。

浜松の空上げは「うなぎ」と「みかん」

では井口さん、浜松基地の空自空上げのお味は?

井口さん:浜松基地の空自空上げは「うなぎ風味」と「三ヶ日(みっかび)みかん 白玉ねぎ風味」の2種類があります。うなぎ風味はやや甘めの味付けで、コクがあり思わずご飯をおかわりしたくなる味です。三ヶ日みかんのほうは逆にさっぱり仕上がっていて、みかんの香りと白玉ねぎのしゃきしゃき感が絶妙です。どちらもすごくおいしいので、今後は浜松市内の飲食店などと連携して、一般の方にも食べていただけるような機会を増やしていきたいですね。

こちらがうなぎ風味。

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写真提供:航空自衛隊

こちらが三ヶ日みかん 白玉ねぎ風味。

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写真提供:航空自衛隊

今回取材させていただいたのは、うなぎ風味の空自空上げ。浜松名物であるうなぎの骨からとった出汁と蒲焼きのタレ、そしてうな丼に欠かせない粉山椒が使われています。下味は塩味でシンプルに、揚げた後に甘辛いたれを絡めています。ご飯によし、ビールによし。揚げたてはもちろんおいしいけれど、冷めてもおいしいのもこの空上げのいいところ。

エアフェスタ当日に記念会食があり、そこで約900名の一般参加者にうなぎ風味空上げを無料提供するとのこと。900という数に驚くのはまだ早いです。浜松基地には基幹隊員が常時約2600名、学生がピーク時には約800名。空自の調理専門集団からすれば900名分なんて朝飯前ですよ。

わさびや桜海老など名物で試してみたが……

浜松基地の空自空上げのレシピ考案者は、管理栄養士の酒井萌技官(下写真)。以前は老人保健施設に勤務していたそうです。浜松基地は空自の基地で唯一、厨房がふたつあるほど大きな基地ですが、酒井さんはそこで提供される給食の全メニューを決めている、まさに隊員の胃袋の管理人。

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▲萌たんの笑顔に癒やされている隊員は少なくないと、個人的には思います

酒井さん:静岡県には浜松のほか静浜、御前崎にも空自の基地があるので、メニュー考案の際は「静岡の名物」ではなく「浜松の名物」を取り入れようと思いました。
さまざまな食材で空上げを試す中で、最初にいいなと思ったのは「わさび」でした。けれど揚げるとわさびのつんとした辛味が抜け、苦みが出てしまいました。それならばと「桜海老」で試すと、魚介の風味と鶏肉の味が今ひとつかみ合わず、そもそもコストがかかってしまうし……。空上げはあくまでも隊員の普段の食事として出すことが前提なので、限られた予算内で作ることが絶対条件なのです。
試行錯誤を重ねた結果、うなぎと三ヶ日みかんにたどり着きました。うなぎは身を使うと予算オーバーですが、骨から出汁を取ることで「うなぎ風味」にできるんです。
今の味になるまでは試作を重ね、そのたびに食べた隊員からアンケートという形でもらった意見を反映させていきました。なので、現在の完成形は隊員たちの声を反映したものになっています。

隊員食堂の一角にはこんなホワイトボードが。ここにリクエストがぎっしり書き込まれるそうです。

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空自空上げは毎月最終金曜日の昼食に「空自空上げの日」として隊員に提供されています。うなぎ風味と三ヶ日みかん、どちらが評判なんでしょう。

酒井さん:それが結構競っているんですよ。うなぎ風味のほうはご飯のおかずにぴったりと好評ですし、三ヶ日みかんのほうはさっぱりしていて食べやすいと。

まったく異なる味なので、そもそも比較の対象になりづらいのでしょう。また、どちらも基地内のさまざまな声を参考に改良を加えて今の味になったので、大差がつかないのはむしろ当然なのかもしれませんね。

揚げた鶏肉をたれに絡めたら評価がうなぎ上りに

続いて、実際に空上げを調理する方にもお話を聞いてみましょう。浜松基地にある南北ふたつの厨房の現場長、つまり現場責任者である樋口崇2等空曹(下写真)です。

樋口さん、よろしくお願いします!

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樋口さんは約15年前に航空自衛隊に入隊、茨城県の百里基地で10年勤務し、調理指導員の資格を得てからこの浜松基地勤務となり現在5年目です。

樋口さん:3〜4人で1000人分の食事を作り上げたときの達成感は大量調理だからこそ味わえるもので、そこにおもしろさも感じます。その一方で難しさを感じるところもあります。たとえば、通常は火ではなく水蒸気で調理するので、中華料理のように強い火力が欲しい炒め物だと、水分が飛びづらくべしゃっとした仕上がりになりがちです。逆に煮物やカレー、豚汁などは、蒸気で調理するとすごくおいしくできますね。
大量調理では鍋もレードル(玉じゃくし)も全部ビッグサイズなので、腕だけで作業すると筋肉痛で大変なことになります。体全体を効率よく使って無駄な力を入れないようにすると負担は軽くなります。経験が浅い隊員ほど腕だけで調理しようとするので、そこは指導するようにしていますね。

調理するだけでも相当の体力が必要なんですね。さて、うなぎ風味の空自空上げについてお聞かせください。

樋口さん:実は、うなぎ風味の空上げは、開発初期の段階ではあまり評価がよくなかったんです。それで酒井さんと相談しながら改良を重ね、「たれにくぐらせ、そこから揚げる」という手順を「揚げた鶏肉をたれに絡める」に変えたところ、一気に「おいしい!」の声が増えました。たれには糖分が入っているので、たれに浸してから揚げると焦げやすく、しかも黒っぽい仕上がりになるので見た目もいまいちなんですよ。ちなみにたれは通常のうなぎの蒲焼きのたれよりも甘さを控えめにして、くどくならないようにしています。

空上げの秘伝レシピを大公開

樋口さんに、空自空上げうなぎ風味のレシピを教えていただきました。

【材料】(4人分)

  • 鶏もも肉 480g
  • 清酒 10g
  • 塩 小さじ1/2
  • 上白糖 20g
  • みりん 40g
  • 醤油 20g
  • たまり醤油 20g
  • 粉山椒 3g程度
  • 揚げ油 適量
  • 片栗粉 適量
  • うなぎボーン(骨) 10g

【作り方】

  1. 鶏もも肉は大きめの一口大(約40g)程度に切る。
  2. 塩と清酒で漬け込む(30分~1時間程度)。
  3. 上白糖、みりん、醤油、たまり醤油を合わせて蒲焼きのたれを作り、素焼きしたうなぎボーンを加えて5~6分煮込み粉山椒を加える。
  4. 鶏もも肉の水気を切り片栗粉をまぶす。
  5. 170℃で5分揚げ、中までしっかり火を通す。
  6. 揚がったら3で作ったたれにくぐらせ、お好みで粉山椒を追加でトッピングする。

ちなみにこれ、自宅でも作れるのでしょうか。その場合のコツは?

樋口さん:浜松基地ではうなぎの骨を出汁にしてたれを作っているのですが、家庭ではそれは難しいと思うので、「市販の蒲焼」のたれを代用してください。ただしそのまま使うと粘りが強すぎて絡みにくいので、料理酒などで薄めてさらっとさせるのがコツです。カリッとした食感を残したい人は、たれにくぐらせるのは食べる直前に!
冷めてしまった場合は、電子レンジで温めた後にトースターで加熱してください。そうすることで水分が抜けてカリッとした仕上がりになります。

スケールのデカい空上げの仕込み

ではここで基地で実際に空上げが出来上がるまでを追ってみましょう。エアフェスタ前日、この日に空上げの下ごしらえを済ませておきます。

こちらは浜松基地のふたつの厨房のうち、小さいほうの北地区の厨房。

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鍋でかっ。

わかります? 丸いの全部、蒸気で調理する鍋です。

まずはうなぎボーンをジェットオーブンで焼きます。

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200~220℃で5分半から6分程度焼くと骨から油が出るので、その油もたれに入れます。うなぎの身を使うと予算オーバーですが、骨を使ってうなぎの風味を抽出するとは、酒井さんナイスアイデア!(写真は工程の一部です。以下同様)

一方、こちらはたれ。

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このたれに、焼いたうなぎの骨を加えて出汁を取ります。

樋口さん:うなぎの骨は粉砕して衣に入れたこともあったのですが、食感が強すぎて固めに仕上がってしまい不評でした。骨をパウダー状にまですればまた違ったのでしょうが、骨をもう一度乾燥させる手間がかかることと、パウダー状にするための器材も必要になるので、実現は難しかったですね。

煮詰めるのは5~6分程度。煮詰めすぎるとたれがどろっとしてしまいます。

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たれ作りが終わった鍋はこの通り、洗ってピッカピカ!

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揚げる前の鶏肉は清酒と塩に漬け込んでおきます。

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前日に行うのはここまで。ひとまずおつかれさまでした!

一夜明けて翌日、つまりエアフェスタの当日、続きの作業が朝5時から始まりました。

170℃の油で鶏肉を揚げていきます。

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鶏肉を揚げている調理器具、ガスティルティングパン(下写真)は、揚げ物のみならず焼き物やお湯を沸かすなどにも使える万能器材です。

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下味に醤油を使っていないので揚げ色がつきにくく、見た目で「おいしそうだな」と感じる衣の色だとすでに揚げ過ぎで、肉がぱさついてしまっています。これ、結構大事なポイント!

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約1時間で900人分の鶏肉が揚がりました。

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揚がった鶏肉をたれに絡めます。自宅で作る場合、食べる直前に絡めればカリっとした食感が残ります。筆者はどっちでも大丈夫派。

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たれを絡ませた鶏肉はこんな感じ!

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これを記念会食用にパック詰めしていきます。普段の「空自空上げの日」で提供する場合はお皿に盛り付けていますよ。今日は特別。

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冷めてもおいしい揚げ物って、お弁当でも重宝しそうですよね。もちろん記念会食でも。

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うなぎと鶏のギャップが素晴らしい

では実際に浜松基地の「空上げ」はどんな味がするのでしょうか。ここで味見役には打って付けの人物に登場してもらいましょう。

自衛隊関連のDVDを多数手がけているほか、映画『まっ白の闇』(こちらは動画視聴サービス各社で配信中)では日本芸術センター第9回映像グランプリ賞(大賞)を受賞した映画監督兼映像ディレクターの大島孝夫氏(下写真)です。

shiroyami.info

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▲大島監督の髪の毛がやや乱れているのは、この日朝4時起床で浜松基地に向かい、こうして空上げを食べようとしている時点でまだ6時だったせい。取材に協力してくださった監督に感謝!

大島監督が手掛けたドキュメンタリー『ポセイドンの涙』は、東日本大震災における海上自衛官と彼らに関わった人々の物語。残念ながらDVDになっていませんが(筆者は密かにDVD化期待してますが)、たった2分の予告編だけで泣けてきます。

www.is-field.com

お待たせしました、では味の感想をどうぞ!

大島監督:食べる前は「鶏肉とうなぎの組み合わせってどうなんだろう」って思っていたんですが、実際に食べてみたら違和感ないどころか、ものすごく合いますね。香りも味もうなぎ風味なんだけど食感は肉というギャップもいいです。

まさにそうなんです。鶏肉とうなぎという個性がぶつかり合わず、互いの味を引き立てているんです。前出の酒井さんはさまざまな特産品で空上げを試すなか、海産物と鶏肉では味がぶつかり合ってしまったと話していましたが、うなぎは「鶏の唐揚げ」というそれだけで十分おいしい一品を、さらにグレードアップさせています。うなぎの身を使うのではなく、骨から出汁を取るというアイデアが功を奏していると感じました。

航空ファンにとっては目のごちそうも

そしてエアフェスタはブルーインパルスをはじめ、今回が見納めとなるRF-4なども雄姿を披露し大盛況でした。

2019年は時期的に台風19号の災害派遣と重なり、一時はエアフェスタの開催が危ぶまれたのですが、航空自衛隊の活動を知ってもらう貴重な機会ということで予定通り行うことになったそうです。実際、この日も給水部隊は福島県で活動していました。

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▲「ファントム」の愛称で知られ、熱狂的ファンも多いRF-4。2019年度で引退が決まっている

うなぎ風味の空上げは、市販の蒲焼のたれを使えば自宅でも簡単に作れます。

「普通の唐揚げはマンネリだな」と思ったら、ぜひ試してみてください。お弁当のおかずにもめちゃくちゃ向いてます。つまみにする場合は、おいしくてついビールやサワーが進んでしまう魔性の味なので、飲み過ぎに気を付けてお楽しみください!

取材協力:航空自衛隊 浜松基地

www.mod.go.jp

書いた人:椿あきら

椿あきら

猫の下僕をしているライターです。猫と暮らすようになってから、断然家飲み派になりました。著書に『オリンピックと自衛隊 1964-2020』(並木書房)。

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