指紋バイオメトリクスはスマートフォンの標準的なセキュリティ機能になっているが、ユーザーはオンラインショッピングや銀行取引、請求書の支払いを安全に行うためにテクノロジーにさらなるセキュリティを求めている。フランスに拠点を置くIsorgは、マルチフィンガー認証をスマートフォンのID認識の次世代フェーズと捉えている。
Isorgが手掛けるのは、スマートフォンのディスプレイに最大4本の指で同時に触れて指紋認証を行うことができる技術である。米国ネバダ州ラスベガスで開催された「CES 2020」(2019年1月7〜10日)では、同技術を採用した、マルチフィンガースマートフォン認証向けフルスクリーン指紋オンディスプレイ(FoD:fingerprint-on-display)センサーモジュールを披露した。
IsorgはCEA-Liten(フランス原子力庁の新エネルギー技術・ナノ材料開発センター)から2010年にスピンオフし、有機フォトディテクタ(OPD)技術の開発に取り組んできた。2018年にはシリーズCで2660万米ドルの資金調達を達成している。
スマホのセキュリティを強化したい
OPDは、さまざまな基板上でプリントフォトダイオードを統合して大面積イメージセンサーを実現する技術で、TFT(薄膜トランジスタ)技術やCMOSイメージセンサーを使用したプラスチック基板やガラス基板と互換性がある。
機器メーカーやエンドユーザーからのスマートフォンのセキュリティとプライバシーの向上を求める声に応えるために、Isorgは6型(以上)のスマートフォンディスプレイの全面で、1〜4本の指認証をサポートするFoDモジュールを設計した。このマルチフィンガー認証機能は、モバイルバンキングやモバイル決済、パーソナルヘルス管理、リモートホームコントロールアプリケーションのセキュリティ強化を目的としている。
なぜ5本ではなく4本指なのか? Isorgの共同創設者でCEO(最高経営責任者)を務めるJean-Yves Gomez氏はEE Timesに対して、「“より多くの指でより安全に”の背後にある論理は、指が多ければ多いほど一致しなければならない指紋データが増え、クラッキングがより複雑になるという事実に基づいている。5本指での認証も可能だが、5本よりも4本指のほうがユーザーフレンドリーなので4本指を採用している。親指を追加すると手の位置の調整が必要になるため、人差し指から小指までを同時に登録する方が簡単だ」と語った。
IsorgのFoDモジュールは、スマートフォンやウェアラブル端末向けの折りたたみ式フレキシブルディスプレイと互換性がある。Gomez氏は、「フレキシブルなポリイミド基板センサーを備えた湾曲した携帯電話ディスプレイに対応している。このスリムな指紋モジュールは300μmより薄い。この特性によって、薄型スマートフォンや折りたたみ式ディスプレイに簡単に統合できる」と説明している。
Isorgのモジュールは、屋内と屋外の両方の環境で使用できる。Gomez氏は、「太陽光の下や、乾燥した指でも認証できるなど、スマートフォンメーカーが求めるさまざまな条件下で堅ろうな性能が実証されている」と述べている。
このフルスクリーンFoDモジュールはスマートフォン向けに設計されたが、ウェアラブル端末やタブレットなどその他のアプリケーションにも拡張できる。例えば、出入国管理や国境警備といったバイオメトリクス産業におけるその他の用途への適用も期待される。
IsorgはFoDのサンプル出荷を2020年春にも開始する予定だ。ただ、FoDを採用したスマートフォンが市場に投入される時期については「スマートフォンメーカーしだい」と述べている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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