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ブックオフ、寺田心の熱演で「本だけじゃないブックオフ」を訴求 - 日経クロストレンド

オンエアは10日足らずながら、CM好感度トップ10入り、ACC賞グランプリなどの記録を打ち立て、2019年を代表するCMになったブックオフコーポレーションのCM。前2回の記事に続き、その制作秘話とメディア展開、成功要因などを深掘りする。

「冗談よしてや」篇/ブックオフの売り場を歩き、ずらりと並んだ服を見て、女性客が「冗談よしてや!ブックオフが服とか売るなんて!」とあざ笑うと、娘が「フックオフやん!」とツッコみを入れて笑う。その様子を見ていた店員役の寺田心が「いけないの~?本だって裏切りがないとつまらないでしょう~!?」と涙ながらに訴えると、母娘は狐につままれたような顔で服を買って帰る。「またのお越しを~!」と笑顔で送り出す寺田

「冗談よしてや」篇/ブックオフの売り場を歩き、ずらりと並んだ服を見て、女性客が「冗談よしてや!ブックオフが服とか売るなんて!」とあざ笑うと、娘が「フックオフやん!」とツッコみを入れて笑う。その様子を見ていた店員役の寺田心が「いけないの~?本だって裏切りがないとつまらないでしょう~!?」と涙ながらに訴えると、母娘は狐につままれたような顔で服を買って帰る。「またのお越しを~!」と笑顔で送り出す寺田

 クリエイティブディレクターであるティー・ワイ・オー(TYO、東京・渋谷)の松井一紘氏の企画2篇に、佐藤渉監督がアレンジを加えたもう2篇を追加し、15秒CMを4本制作することが決定。しかし寺田心の所属事務所に企画を見せると、顔色が曇ったという。

 「最初に打診した時の企画では、心くんが普通にセリフを言うだけだったんです。でもそれが、『ブックオフなのに本ねぇじゃーん!』と言ったり(心を読める心くん篇)、『冗談よしてや!ブックオフが服とか売るって、フックオフやん!』(冗談よしてや篇)と言ったりと感情を爆発させるものになっていたので、話が違うと(笑)。そこで菓子折りを持って直接担当の方に会いに行って、こちらの思いを伝えました。『心くんは天才だと思っています。だからこそ、この企画で次が見たいんです!』と。そうしたら理解してくださって、『やりましょう』と言っていただけました」(松井氏)

 ただし、人気タレントゆえに他のクライアントへの配慮が必要だった。

 「最初の企画には『ダメなの~?ガス屋が電気を売ってるのに、本屋が服とか売っちゃ』と言うセリフがあったんです。でも、心くんが東京ガスのCMに出ることになって、NGに(笑)。さらに『スマホ』という言葉は言えない、店頭の服と同じ画面に入れない、などいろんな問題が出てきて……。その時は『スマホも服もある』とセリフで言いたいと思っていたのですが、言えることがなくなっていったんです。そうして撮影の3日くらい前に出てきたのが『ブックオフなのに本ねぇじゃーん!』という言葉でした」(松井氏)

 後に拡散ワードとなる「ブックオフなのに本ねぇじゃーん!」は、状況を逆手に取って浮かんだセリフだった。こうして無事に撮影日を迎え、寺田心の見事なキレ演技を収録。また佐藤監督のアイデアで、「お買い上げ、ありがとうございま~す」とさわやかに客を送り出すカットも撮影し、寺田のギャップを楽しめるようにした。編集段階では、ブランド資産の活用も行われている。

 「『♪本を売るならブックオフ』というサウンドロゴは、長年、CMや店頭で流して築きあげたブランドの資産です。マストな条件ではなかったのですが、『新CMでも、うまく使ってもらえたらうれしい』とお話をさせていただいてました」(千田氏)

ブックオフコーポレーション マーケティング部 部長 千田竜也氏

ブックオフコーポレーション マーケティング部 部長 千田竜也氏

視聴者が寺田心のセリフをアレンジして拡散

 サウンドロゴは約3秒あったが、寺田と客の演技をしっかり見せたいと、アレンジして尺を詰めた。完成したCMは、3月と9月に9日間ずつ、スポット枠で放送。地域は関東と中部地方のみだ。

 「宣伝にかけられるお金は限られてますし、広告にお金をかけるより、店舗やサービス向上にお金をかけたいという思いもある。そんななかでテレビCMを流したいとなると、必然的に出稿量を減らすしかないんです。

 まず男性客が叫ぶ『本ねぇじゃん』と、主婦が心を読まれて褒める『すごいやん心くん』の2篇を放送したところ、放送していない『心を読める心くん』『冗談よしてや』という2篇のYouTube再生回数が特に上りました。その2篇を改めて9月にテレビで流したという形です。

 ウェブではいろいろな方が『本ねぇじゃーん!』と言う心くんの声や映像をいじって、YouTubeやTikTokに上げていて。その再生回数も半端じゃなく、TikTokの再生回数は歴代1位になりました」(宮岡氏)

 最近はSNSでの拡散を狙い、影響力を持つインフルエンサーに謝礼を払い紹介してもらう広告主も多い。しかしブックオフはその費用をほとんどかけることなく効果を上げ、「クライアント側からすると、『何ていい買い物ができたんだろう』という形になった」(宮岡氏)と喜ぶ。

ブックオフコーポレーション マーケティング部 メディアグループ 宮岡直樹氏

ブックオフコーポレーション マーケティング部 メディアグループ 宮岡直樹氏

 出稿量を抑えてウェブ拡散に成功し、費用対効果の大きなCMとなった今回の寺田心シリーズ。うまくいったのは、TYOとの直取引という方法を採ったからでもある。

 「TYOはもともと制作プロダクションとして始まったのですが、今はプロダクション、クリエイティブ、メディアバイイングなどを行う営業が一緒くたになっていて、売上構成比の3割以上は直案件となっています。また、今までの代理店システムだと、代理店側にクリエイティブディレクターがいて、別の会社やフリーランスで監督がいるという形でした。僕らは両者が一緒の組織にいるので、企画を無限に研ぎ澄ませることができるところも強みだと思っています」(松井氏)

 研ぎ澄ませた企画を、クライアントが丸くすることなく、そのままの形でCM化したことも大きな勝因だ。

 「今までやってきていない表現なので、社内では満場一致で決定とはいかず、いろいろと調整は必要でした。とはいえ、社内への説明は私がして、TYOさんとのやりとりは宮岡がするという役割分担がある。そしてクリエイティブは松井さんたちが、タレントさんとの交渉はTYOの営業さんがやってくれる。それぞれがプロフェッショナルとして役割を果たしてきた、チームとしての成果が花開いたのが今回かなと思っています。このチームでやってきて約3年。代理店やクリエイティブエージェンシーをコンペで毎年変えていくやり方だと成功はなかったと思います」(千田氏)

 Amazon、ヤフオクにメルカリなど、中古売買のライバルが増えて苦戦を強いられてきたブックオフ。一時は赤字転落するも、今年はスポーツ用品や貴金属、ブランドバッグなどの販売が好調で、11月次の既存店売り上げは101.2%と前年を上回った。当初のCMの狙いであった「本だけじゃないブックオフ」を訴求できたことも勝因の1つと言えそうだ。

(写真/三川ゆき江)

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