
ひとり出版社・夏葉社をはじめて10周年を迎えた島田潤一郎さん。
新著『古くてあたらしい仕事』に描かれたのは転職活動がうまくいかず苦悩した日々や大切なひとのための一冊の本づくり、そして今日にいたるまで。誰かを蹴落とすのではなく、自分のできることに力を尽くす
その姿が多くの人の心を動かしています。
夏葉社の本の愛読者で、初の新聞連載にして第三作となる長編小説『人間』を刊行された又吉直樹さんと創作と本をめぐってお話しいただきました。
***
どうしても書きたかったこと
又吉 『古くてあたらしい仕事』すごく面白かったです。体温を感じられる文章で、これはどうしても伝えたかったんだろうなというのを感じました。
島田 本当ですか。ありがとうございます。おかげさまで夏葉社をはじめて、十年になりました。又吉さん、デビューは何年ですか。
又吉 僕は二〇〇〇年デビューなので、ちょうど二十年目です。
島田 二十周年ですか、すごい。おめでとうございます。続けていると、自分のスタイルのようなものができていくわけですよね。又吉さんのお仕事を見ていると、それを壊しながら進んでいるように感じます。
又吉 最初は何もわからない状態で芸人をやりはじめたので、はたして自分は芸人なのか、という違和感がずっとありました。十年位経つと、自然とお客さんにも芸風が浸透して、「又吉らしいな」と劇場で笑ってもらえるようになったのが、二〇一〇年にテレビに出始めたら、まったく通用しなくて、またすべてが崩れ落ちていって(笑)。
島田 確かに、テレビに出始めた頃の又吉さんはそういうイメージがありました。いまより青白かったというか。
又吉 メイク室で誰に頼んだらいいのかわからないから、ノーメイクで出ていた時期があったんです。それで、顔色悪い、顔色悪いって言われて(笑)。
島田 又吉さんが書かれる小説も一作目、二作目、三作目と経験が積み重なっていくことでどんどん掘り下げられて、どこまで潜るんだろうって、今回『人間』を読んで感じました。これまで芸人の又吉さんと作家の又吉さんを分けて考えていたけれど、こうした大きな小説になったことではじめて又吉さんが目指しているものが見えて、すごい感動しました。
又吉 三作目だからこういう書き方になって、また次は全然違うかもしれないですけど、登場人物と自分の距離みたいなことをどうしても僕は言われやすいので。それは僕を芸人と知っている人が本を手にとってくれるからで、ひとまずそれを完全に受け入れようと思いました。
島田 又吉さん自身ともとれる影島と主人公の対話の場面はスリリングですごい迫力がありました。同時にこれはどこにたどり着くのだろうと読み進めていくと、3章で沖縄に舞台が移って、お父さんとのくだりが始まるんです。影島との対話の重みみたいなものと、お父さまのあの感じが、人間としては同じ価値で描かれている。それが『人間』のすごいところなんだと思いました。
又吉 ああ、うれしいです。沖縄は書けてよかったところで、実は書くのが怖いところでもあったんで。自分でもこれは何なんやろ、読んだ人きっと戸惑うやろうな、と思いながら。でも、書きたかったんです。
島田 あそこがあってよかったです。
又吉 意外とみんな戸惑わずに読んでくれているみたいで、小説の途中で一回、僕のこと嫌いになりそうになったけど、最後まで読んでよかったなんて感想もありました。
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March 22, 2020 at 08:00AM
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又吉直樹×島田潤一郎 本がもたらしてくれるもの――島田潤一郎『古くてあたらしい仕事』刊行記念対談 (Book Bang) - Yahoo!ニュース
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