
私が営んでいる書店は幼児向け絵本、児童文学、自分の好きなジャンルである料理本が棚の多くを占拠しており、春休みを迎える中高生向けの棚はなかなか潤わず選書に悩んでいた。そんな時、発注画面で目に留まった眩しい黄色の表紙の「17歳の特別教室」シリーズ。実際に、パラパラめくっただけで引き込まれ、自分で買って読んでみたらとても面白く、今では(中高生ではない大人への)贈り物にするほど気に入っている。
このシリーズは、様々な職業の大人が講師となって高校生を対象に現代を生き抜くうえで必要な知恵を伝える「特別授業」を行い、その内容をもとに書籍化したもの。その大人のラインナップは高橋源一郎、佐藤優、瀬戸内寂聴、岸見一郎、京極夏彦、磯田道史……と、心をぎゅっと掴まれる。この授業を直に受講できることに羨ましさを感じつつ、17歳じゃないのに本のおかげで覗き見させてもらえることに感謝する。
シリーズ第一弾である高橋源一郎さんの巻で繰り返し出てくるのが「先生は本にいる」ということ。これは瀬戸内寂聴さんの巻でも出てくる。子供の頃、明らかに対象年齢外の本を「絶対に読むから」とゴネて買ってもらい、難しかった部分を読み返すたび理解できて嬉しかった読書体験や、自分の知っている「常識」的で「正しい」はずの思考が本の中の言葉に揺るがされ、視野が広がったことがその一言で思い出された。確かに先生は本の中にいる。このシリーズ自体がそうだ。学校で会うことの出来ない賢く面白く破天荒で優しい先生たちが、「誰かの正解」を押し付けるのではなく「自分の正解を見つけるまでの過程」を見守ってくれる。磯田道史さんの巻に、教科書は「平均値」にすぎないとある通りだ。
生徒も人間で先生も人間なのだからお互い合う合わないは確実にある。学校の先生とそりが合わずに勉強を放棄してしまうくらいなら、この本を開いて自分で迎えに行ってしまおう。
[レビュアー]夢眠ねむ(書店店主/元でんぱ組.incメンバー)
7月14日生まれ。三重県伊賀市出身。多摩美術大学卒業。アイドルグループ「でんば組.inc」の元メンバー。愛称は“ねむきゅん”。みえの国 観光大使。他の著作に『ゆめみやげ』『まろやかな狂気』『夢眠軒の料理』などがある。
新潮社 週刊新潮 2020年3月26日花見月増大号 掲載
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