面白さは色あせない
今回の10冊はあまり深く考えず、ぱっと頭に浮かんだ本を挙げました。
『麻雀放浪記』は大学に入って一人暮らしを始めた20歳のときに読みました。僕の物書きとしての原点となる作品です。
「エホバの証人の活動のなかで、最もつらかったこと」元信者が告白
終戦直後、上野のドヤ街で博打うちの闘いが繰り広げられるという特殊な世界の話なのですが、当時の風俗や人間同士の精神的葛藤が見事に描かれている。
麻雀の牌姿を文中に入れ込むのも画期的で、4冊の文庫本を、時を忘れてむさぼるように読みました。こんなに面白い小説があるのかと心が震えるほどでした。
その後、『怪しい来客簿』や『狂人日記』など色川武大作品も読みましたが、『麻雀放浪記』のような衝撃はなかった。そこで思ったのは、やっぱりエンタメが最強だということ。何か書くのであれば、こういうものを書きたいと思いましたね。
今でも時々読み返します。面白さは色褪せないどころか、これ以上のエンタメ小説に僕は未だに出会っていません。
『どくとるマンボウ航海記』は中学1年生のときに初めて買った文庫本です。夏休みの課題で感想文を書くことになり、一冊は山本有三の『路傍の石』と決まっていて、もう一冊は自由に選ぶことができた。
『路傍の石』はたちどころに挫折しましたが、『どくとるマンボウ航海記』はげらげら笑いながら読んでいるうちにあっという間に読了。
船医として世界を旅する航海記なのですが、まえがきがやたらに長かったり、肝心の話を「これ以上は書けない」で終わらせてしまったり。本は真面目なものと思っていたので、こんな風にふざけていいのかという大きな発見でした。仕事に行き詰まったときに立ち返る一冊です。
私にとっても「笑い」は重要な要素です。自分の本は読者が笑って楽しんでくれるものであってほしいと思っています。
文豪が書く自虐ネタ
太宰治は『斜陽』や『人間失格』など深刻な小説が有名ですが、僕は彼のキレのある短編、とくに滑稽小説が好き。中でも『太宰治滑稽小説集』に収録された「畜犬談」はいちばん好きな作品です。
極度に犬を恐れる主人公が捨て犬を飼うことになる。けれど好きになることができず、ずっと罵倒し続ける。そのうちに犬を捨てて行こうとすると、犬が皮膚病にかかる。
ただそれだけの話が太宰の手にかかると、異常に面白くなる。ボキャブラリーと表現力をもって自虐ネタで笑いを取る手法は見事としか言いようがありません。いちばん重要なのは意味がないこと。こんな作品は太宰にしか書けないでしょう。
『ずばり東京』は開高健さんが昭和38年~39年にかけて『週刊朝日』で連載されたものがまとめられています。
オリンピック開催に沸く東京の各地を隈なく回り、変わりゆく東京の姿をとらえていくのですが、タクシー運転手から聞いた話を運転手の語りでまとめたり、テーマによって文体や書き方を変えています。
ライターになってから読んだのですが、その表現方法の多彩さに驚嘆し、正直へこみました。小説家として有名になってから書いたルポルタージュということで、自由でのびのびしたところもいい。
開高さんの作家としてのターニングポイントはベトナム三部作といわれていますが、僕は『ずばり東京』だと思います。
『マンハッタン少年日記』は20代半ば、大学を卒業してぶらぶらしていた時期に、タイトルに惹かれて買いました。ニューヨークの少年たちのしみじみした交友録なのかと思ったら、全然違った。貧しい少年がドラッグや暴力で身も心もボロボロになりながら必死に生きていく話でした。
最後の一行の言葉「純粋になりたい……」を読んで、僕は泣きました。あれほどたくさん汚いものを書いたからこそ見えてくる美しいものに痺れたんです。
『東京ゴミ袋』は、私のライターとしての方向を決定してくれた一冊です。
このルポはもともと『月刊写真時代』に「耳村万寿の東京ゴミ大図鑑」として連載されていて、そのときから愛読していました。バブルの頃で、僕はスキー雑誌の仕事をしていました。あるとき、「東京ゴミ大図鑑」の連載で雪の溶けかかった苗場スキー場で発見されたスキー靴、手袋、サングラスといった落とし物を分析していたのです。
それを見たとき、「僕がやりたいのはこっちだ! 即刻スキー雑誌の仕事はやめなければならない」と思い、今のライターとしての道を選んだのです。
直感で選んだ10冊でしたが、こうして見ると、いろいろな意味で僕の目を開かせてくれた本であることが分かりました。(取材・文/緒形圭子)
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March 08, 2020 at 09:01AM
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