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ゴールデンウィーク「こころがなごむ本」<1> - 読売新聞

 ゴールデンウィークの過ごし方はもうお決まりでしょうか。遊びに出かけることができない今、家でできることといえば、インターネットにテレビゲーム、ゴロ寝……? いや、ここは読書でしょう! 本との出会いが、私たちの心をなごませ、日頃のストレスを解消します。そんなとっておきの一冊をご紹介します。

 飯間浩明(国語辞典編纂(へんさん)者)

 精進しょうじ湖のほとりの宿に泊まった翌朝、窓の向こうに美しい雪山。黒柳さんは感激して「なんていう山です?」。富士山だった。そりゃそうだ……。本書で紹介されるのは、著者のこんな愉快な失敗、早とちり、言い誤り――なんだけど、身につまされる読者も多いはず。はた目には笑い話でも、本人にとって苦しいことは、人生に多い。著者は自分自身を振り返って「欠落人間」と表現する。でも、そんな著者のたぐいまれな活躍は、誰もが知るところ。「黒柳さんだって数々の失敗を乗り越えてきている」と思うと、ふと力が抜け、やる気が湧いてきます。

 (現在は絶版)

 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 旧ソ連出身のノーベル文学賞詩人が若い時に書いた作品を、その没後に芸術家が絵本として再生させた美しい1冊です。

 32ページの短さながら、大判で、ゆったりとした装丁と、見事な翻訳のおかげで、読み終えるとやさしい気持ちが残ります。

 主人公のタグボートは、詩人の故郷サンクトペテルブルクのネヴァ川で働き、いくつもの出会いと別れが日常です。地味な仕事のため、大きくはたたえられない、その存在は、しかし、決して欠かせません。

 私たちも同じでしょう。

 あらゆる人を惜しみなく肯定する、静かな応援歌です。

 加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

 21世紀の世界は、人と情報が行き交うなかで、土地や人の個性はうしなわれつつあるようだ。

 莫言は、今や数少ない土の臭いが充満する作家だ。現代人的感性とは一線を画す彼の作品は、村上春樹の対極にある。

 長い歴史のなかで培われた土俗性、そして土埃つちぼこりまみれて生きる人びとの愚かさとたくましさ……薄味でひ弱な現代人の悩み話に飽きたら莫言はお薦めだ。

 『赤い高粱』は、五つの中編からなる連作小説。ただ、濃厚すぎる中国的世界に慣れない人が無理して全編読むと食あたりするので、まずは第一編でも読んでみるといいでしょう。

 村田沙耶香(作家)

 なんだか、今日、何もしていないなあ、と思うことがある。けれど、指先についたボールペンの汚れがなかなかとれなかったり、シャツのタグがかゆいなあ、と思って切ったらもっと痒くなったり、本当は毎日何かが起きているのだ。句集『春のお辞儀』を読んでいると、そんな当たり前のことに改めて気付かされる。

 行数が少ないので引用が難しいが、例えば、「昼寝してなんだか動く紙コップ」という句を、私はいくら眺めていても飽きない。何もしていない日常が、発見の連続になる。今、この本が本棚にあることに感謝しながら、そっと手にとっている。

 南沢奈央(女優)

 二度寝をすることは私にとって贅沢ぜいたくの一つだった。それが近頃、思う存分できてしまう日々になり、今は、早起きをして、丁寧にコーヒーをれて読書することが贅沢になっている。

 「たまにはこういうことするのもおもしろいわね」というヒントがたくさん詰まっているのがこの本。のんびりマイペース、大雑把を天然でやってのける独身女性、るきさんの日常を描いた、不朽の名作コミックだ。文庫版でもオールカラーで、ページをめくるたびに変わっていく鮮やかな色使いが楽しい。天気の良い日に、るきさんとスキップをしている気分になれる。

 苅部直(政治学者・東京大教授)

 都内版を読んでいる方にはおなじみの、写真エッセイの連載をまとめた一冊。主に一九五〇年代から七〇年代までの東京下町の風景と、著者の温かい語り口を楽しめる。遊んでいる子供たちも、働く大人たちも、生活の苦労をそれぞれに抱えていたはずだが、幸せそうに見える。今よりも人の気持ちに余裕があったせいだろうか。

 タワーマンションも高架の高速道路もなかったころの風景は、空が広く開けて、高い煙突も子供の揚げるたこも見える。屋根の下にいても、そんな風に青空を遠く見あげる気持ちですごしていたい。

 佐藤信(古代史学者・東京大名誉教授)

 時間がある時にお勧めの本です。言わずとしれた説話を集めた平安時代末の古典文学。本朝世俗部は、宿報・滑稽や怪異など日本の民間の説話です。ボリュームがあっても、どの説話から読んでも構いません。

 古典を堅苦しく感じるかもしれませんが、漢文から漢字カナ交じり文になった頃の本文は無理なく読めますし、読み進むうちに文体にはすぐ慣れます。しかも、「倒るるところに土をもつかめ」という受領ずりょうの貪欲さを描いて失笑してしまう説話や、芥川龍之介『芋粥いもがゆ』の原型の説話など、面白い話が満載。飽きずに楽しいこと、請け合いです。

 稲野和利(ふるさと財団理事長)

 外出自粛でも旅をする方法がある。書物旅行だ。「乗鉄のりてつ」ならぬ「読鉄よみてつ」を名乗る本書は、書下ろし10編を含む50の小編を収録する。鉄道とくれば外せない大御所の内田百●や宮脇俊三を始め、沢木耕太郎(『深夜特急』から収録)や、意外な名前では小林秀雄など、その顔ぶれは多彩だ。

 どこから読んでもいいだろう。鉄道マニアでなくても十分に堪能できる。廃線となった軽便鉄道、ローカル線、寝台特急、新幹線、空想上の山岳鉄道など、時空間を超越して好みの旅をすくい取ることが可能だ。さあ、あなただけの旅を始めよう。

 (●は「門」がまえに「月」)

 三中信宏(進化生物学者)

 還暦を過ぎてから評者は朝に夕に料理を手がけることがさらに多くなったが、はたち過ぎに千駄木の下宿の狭い炊事場でひとり料理をつくり始めたのがすべての始まりだった。その頃たまたま買った精進料理本が社会派作家・水上勉の手になる本書だ。京都の等持院で彼は“隠侍いんじ”として修行を積み、“典座てんぞ”の教えに従い、精進料理の基本をたたき込まれた。軽井沢の地に出回る旬の地野菜を使った精進料理レシピの数々を味わい深い写真とともにゆっくり読んでじっくり味わえば、誰しも厨房ちゅうぼうに立ちたくなるだろう。評者ももっと精進しないと。

 橋本倫史(ノンフィクションライター)

 12へんが収録された、温泉まんがのアンソロジー。温泉旅行がかなわぬ今、本書で旅気分に浸るのも悪くないだろう。巻頭に収録される「二岐渓谷」の作者・つげ義春は、東北の湯治場の写真を目にし、「あまりに惨めで貧しそう」なたたずまいにかれる。そして東北を巡り、貧しい温泉宿を舞台に作品を描いた。

 そんなつげ義春が、将来への不安や心身の不調を赤裸々に記した『つげ義春日記』が、講談社文芸文庫に入ったばかり。ウイルスにおびえる今の私は、つげがつづ鬱屈うっくつした「生活報告」を読んでいるうち、なぜだか穏やかな気持ちになる。

 栩木伸明(アイルランド文学者・早稲田大教授)

 栞は好奇心が強い上に天然ボケなので、ゴミ捨て場に生首が落ちていると拾って帰るタイプ。紙魚子は頼もしい物知りだ。彼女が『生首の正しい飼い方』という本を探し出して栞に渡すと、栞は水槽で生首を飼いはじめる。竜之介という名前までつけて……。

 肝が据わった二人組の女子高校生が活躍するこのマンガはさわやかなホラーコメディー。近所に出没するもののけに出会っても慌てず騒がず、共に生きる柔軟さがかっこいい。二人の冒険を追いかけるうちに、心が芯から和んでくる。四巻あるのでたっぷりどうぞ。

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May 03, 2020 at 03:30AM
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