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「データ所有型電子書籍」で電子書籍に紙の本の良さを取り戻す - DG Lab Haus

共同創業者 後藤卓哉氏(左) ブロックチェーンエンジニア 永井翔氏

 ここ数年書店の数は減少し、出版業界の苦境が続いている。ところが、公益社団法人全国出版協会によると、2019年の「紙」と「電子」を合算した出版市場(推定販売金額)は、前年比0.2%増の1兆5,432億円。2014年の電子出版の統計を取り始めて以来、その合計が初めて前年を上回った。紙の市場は前年比4.3%減少しているものの、電子出版が同23.9%増と大きく成長し、3,000億円に達したという。

 結果、出版市場全体における電子出版の占有率は前年の16.1%からさらに上昇し、約2割を占める規模になった。電子出版が出版市場全体を底支えするほどの存在になったといえる。

 しかし、電子化された書籍は、確かに利便性もあるが、紙の本に比べて不便なことにも気づく。原則、貸し借りは出来ないし、本に作者のサインをもらったりもできない。また、別のプラットフォームで読むこともできない。例えばキンドル(アマゾンの電子書籍リーダー)で購入した電子書籍は、キンドルでないと読めない。万一、電子書籍リーダーの事業者がサービスをやめてしまうと、今まで買った電子書籍が消えてしまう可能性すらある。実際にこれまでサービスを終了した電子書籍リーダーの利用者からは大きな不満の声があがったこともある。

 こうした不便さは、紙の本は「買って所有するもの」であるのに比べて、電子書籍など電子出版されたものは「読む権利を買うもの」であることに起因する。電子書籍を買って読むことは、その事業者のクラウドデータにある書籍データへのアクセス権を買っているに過ぎないからだ。

「データ所有型電子書籍」とは何か

 株式会社Gaudiy(東京都渋谷区)は、そんな電子書籍の不便さを解消するため、紙の本の良さを電子書籍でも味わえるように「データ所有型電子書籍」事業の開発を行い、マンガアプリ「GANMA!(ガンマ)」を手がけるコミックスマート株式会社(東京都新宿区)と一般ユーザー向けのサービス実用化を開始する。

 Gaudiyによると「データ所有型電子書籍」は、紙の本同様、電子書籍を“所有”することができるようにするものだ。「そのために、パブリックチェーンであるイーサリアムを利用します」(共同創業者:後藤卓哉氏)。具体的には、イーサリアム上で発行されるNFT(Non-Fungible-token:イーサリアム上で発行される代替不可能性を持つトークン)として、唯一無二の形で個々の電子書籍を発行する。それによって、電子書籍は、購入者のものとなり、事業者の都合に左右されず、閲覧・管理ができ、紙の本のように売買もできる。「ユーザーの端末に電子書籍をダウンロードするときに、ユーザーが持つ公開鍵で暗号化して『データの所有』と『不正コピー防止』を可能にします」と同社のエンジニア永井氏は話す。

コンテンツ制作側に還元される仕組みを

 また、「データ所有型電子書籍」はOSS(オープンソース・ソフトウェア)として公開する。「たとえGaudiyがなくなったとしても、誰かが電子書籍リーダーを作り続けられるようにしています」(後藤氏)

「データ所有型電子書籍」の概念図(提供Gaudiy)
「データ所有型電子書籍」の概念図(提供Gaudiy)

コンテンツ制作側にもっと収益が還元される仕組みを創りたい

 Gaudiyが取り組む「データ所有型電子書籍」は、ユーザーが紙の本のよさを電子書籍でも経験できるようにするものだが、それだけではないと後藤氏は言う。

「電子のコンテンツって、プラットフォーム側の力が圧倒的に強いのではないでしょうか? ぼくらは、コンテンツ制作側、例えばクリエイターや出版社サイドにもっと収益が落ちるような仕組みを作れないかと考えています」

コンテンツ制作者にもっと収益をと話す後藤氏
コンテンツ制作者にもっと収益をと話す後藤氏

 Gaudiyが考えるのは、誰でも電子書籍の販売者になれるような仕組みである。例えば、マンガの作者が電子書籍100冊だけにサインや特別なコンテンツを追加することができる。そうすると、その100冊は大きな価値を持つ。それを購入したユーザーは、そのサインや特別コンテンツを得られるが、その一次ユーザーが他のユーザーに電子書籍を販売した場合には、そのサインやコンテンツが閲覧できなくなるというような仕掛けができる。

 また、一次ユーザーが誰かに販売した後も、販売の度に出版社、作者、一次ユーザーに一定の割合で報酬が分配される仕組みも可能になる。電子書籍の二次流通市場が形成されるかもしれない。

 現在、紙の本の場合、古本として買い取られた場合には、作者や出版社には何の分配もない。それに比べると「データ所有型電子書籍」の2次流通のほうが魅力的だ。

 さらに、出版社や作者だけではなく、プラットフォームや書店でもない新しい「個人による小さな販売網」の構築も始まるのではないかと後藤氏は続ける。

「例えば『不滅のヤイバ(仮)』というマンガを好きなインフルエンサーがいたとして、これは自分のやり方でもっと売ってあげたい!と出版社に申し出て、彼らにどんどん販売してもらうことも可能になります。つまり、誰でも書店になれるというイメージでしょうか」

 面白い試みだが、従来の流通やプラットフォームとの摩擦は生じないのだろうか。それを聞くと、後藤氏は笑って否定する。

「あくまで、紙の空間でできた読書体験を電子空間でできるようにしたいというところです。そして出版社や作者に新たな収益源を開発していきたいところがねらいで、むしろ電子書籍のプラットフォームなどとは連携をしていきたいと考えています」

IPコンテンツが中心の経済圏

 書店でサイン会などのイベントを開き、作り手とリアルな場を共有し、限定サービスなど付加価値の高いIP(Intellectual Property:知的財産)コンテンツを販売する方法は紙ならではのものだ。コロナ禍でこうしたリアル空間での独自体験がむずかしくなった今、バーチャルマーケットのような電子空間でのコンテンツ販売が注目されている。

 Gaudiyは、将来的には電子書籍に限らず、IPコンテンツが中心の経済圏を作りたいと考えており、書籍が映像や音楽などとクロスメディア展開するときに、この仕組みを導入していくことも考えている。

「収益の分配やクロスメディアでのマーケティングなど、さまざまなステークホルダー間の連携がブロックチェーンを活用することで簡単になります」(後藤氏)

 デジタルコンテンツの新商流を創り出せるかどうか、注視したい。

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August 13, 2020 at 06:57AM
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