2019年も大作から問題作、話題作まで、さまざまな映画が公開された。そのなかから、『WIRED』US版が選んだ2019年のベストムービー14本を紹介しよう。
TEXT BY ANGELA WATERCUTTER
TRANSLATION BY CHIHIRO OKA
2019年は映画業界にとって、少しばかり特別な1年だった。まず、ディズニーが年間の興行収入100億ドル(約1兆945億円)という記録を打ち立てた。しかも、『スター・ウォーズ:スカイウォーカーの夜明け』前の12月上旬の時点ですでにこの数字で、通年ではさらに増えるのは確実である。これは『アベンジャーズ/エンドゲーム』(今回の記事でも取り上げている)と『ライオン・キング』の“超実写版”リメイク(残念ながら選外だ)によるところが大きい。
一方で、今年は独立系の佳作は少なかった(それとも、ハリウッドの超大作の陰に隠れて目立たなかっただけだろうか。判断が難しいところだ)。これに対し、超大作ではないが上質な中規模の作品には恵まれたと言える。『パラサイト 半地下の家族』や『Booksmart』(原題、日本未公開)は本当に素晴らしい出来で、あらゆる観点から絶対にお薦めの1本となっている。
『パラサイト 半地下の家族』
今年、最も衝撃的な映画だった。しかし、それは監督・脚本家のポン・ジュノの作品には評価の低いものもあるから(『スノーピアサー』『オクジャ/okja』『グエムルー漢江の怪物ー』を思い出してほしい)驚きだということではない。『パラサイト』は観客を非常に不快な気分に追い込んでから、最後に思いもよらない方法でその緊張を解放する。そのやり方がとにかく見事なのだ。
物語は半地下の不衛生なアパートで暮らす貧しい家族が、高級住宅街に豪邸を構える裕福な一家を騙して家庭内に入り込んでいくところから始まる。全編を通して人々がどのようにつながりを築き、互いを評価するのかについての強力な批評になっており、同時に金持ち特有の不安と混乱に貧しい人がどう対処していくかも描かれる。メタファーという意味でも、今年いちばんの作品だ。
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』
スター・ウォーズ以前のライアン・ジョンソンの経歴を見れば、この監督が実はさまざまなジャンルに挑戦したきたことがわかるだろう。例えば『LOOPER/ルーパー』はタイムトラヴェルもの、『BRICK ブリック』はフィルム・ノワール、『ブラザーズ・ブルーム』はクライムコメディだった。
ジョンソンは最新作ではアガサ・クリスティ風の探偵ミステリーに取り組み、これまでと同様に素晴らしい結果を出した。面白くてしゃれていて、少しばかり辛辣な政治的見解も含まれている。最近では珍しくなった、楽しい時間を過ごせるいい映画だ。
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
結局のところ、うまい落とし所を見つけるのが難しかったのだろう。監督のJ.J.エイブラムスは、プロジェクトの初期段階から「観客が満足できるような結末になるかがいちばん心配だ」と話していた。エイブラムスに課せられた使命は、2015年の『フォースの覚醒』からの3部作だけでなく、オリジナル3部作から始まるスカイウォーカー家の物語に決着をつけることである。これが非常に大きな重圧だったことは容易に理解できるだろう。
ただ、数十年にもまたがる壮大な物語を終わらせ、同時にファンからの期待に応えるために、エイブラムスはベストを尽くした。完璧な仕上がりだっただろうか。答えはノーだ。ルーカスフィルムの遺産に頼りすぎたのか。イエスと言わざるを得ない。
それでも、ストーリーにはひねりが効いている部分もあったし、何よりスター・ウォーズへの愛が詰まっていた。シリーズのファンたちにとって満足のいく出来だったのではないだろうか。
『マリッジ・ストーリー』
ネットフリックスが『アイリッシュマン』と同じようにオスカー狙いで制作したのが『マリッジ・ストーリー』だ。監督・脚本はノア・バームバックで、舞台演出家の夫チャーリー(アダム・ドライヴァー)と女優の妻ニコール(スカーレット・ヨハンソン)の離婚を巡るドタバタ劇が描かれる。映画は別れの痛みに耐えるふたりが、互いにどれだけ残酷に、またどれだけ優しくなれるのかを見つめていく。ドライヴァーとヨハンソンの演技もよかった。
『ハスラーズ』
ストリッパー、ゆすり、歌手アッシャーのカメオ出演。ここまでだと、『オーシャンズ11』の出演者を全員女性にしてリメイクしただけに聞こえるかもしれない(というか、そんな映画が昔あったような気がする)。とにかく、映画の女神のおかげで『ハスラーズ』はそんなつまらない作品には終わらず、興奮で歓声を上げたくなるような1本に仕上がった。
監督のローリーン・スカファリア(『エンド・オブ・ザ・ワールド』の監督・脚本を手がけた)は同時に、社会格差や人々が生活のためにやらざるをえないことに対して鋭い視線を向ける。ジェニファー・ロペスが米国を食い物にしたウォール街の金融マンたちから金を巻き上げることについて独白するシーンがあるが、個人的には映画史に残るモノローグだと思っている。ロペス、コンスタンス・ウー、今作が映画デヴューとなるカーディ・Bをはじめ、出演者はみんな素晴らしいし、こんな作品にお目にかかったのは本当に久しぶりだ。
『アス』
2017年公開の『ゲット・アウト』の大ヒットを受け、映画業界は監督・脚本のジョーダン・ピールが次に何をやるかに注目してきた。こうしたなかで登場した『アス』も、前作と同じように日常への視線を一変させてしまうようなホラー映画だ。
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『アス』は、夏休みでビーチを訪れた一家が自分たちのドッペルゲンガーに襲われるというストーリーを通じて、もてる者ともたざる者の分断という現実をあぶり出す。心の底から怖いことはもちろん(この先はウサギを見るたびにぞっとするはずだ)深い洞察に満ちたこの作品は、『ゲット・アウト』がそうだったように、現代社会への非常に巧みな風刺になっている。また、主演のルピタ・ニョンゴは『それでも夜は明ける』以来で最高の演技を見せてくれた。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
まず指摘させてほしいのは、クエンティン・タランティーノの最新作は長すぎて、結末もちょっとありえない感じがするという点だ。それを別にすれば、この作品は俳優のリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)とスタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)の物語を通じて、チャールズ・マンソンとその追随者がロサンジェルスを恐怖に陥れた時代を表現力豊かに再現してみせた。
これまでのタランティーノ作品のすべてがそうだったように、最新作もシネマという世界へのラブレターになっている。タランティーノがシャロン・テート殺人事件をフィクションに仕立てるために使ったトリックは、まさに凄まじいのひと言に尽きる。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』
『アベンジャーズ/エンドゲーム』はただの映画というよりも、ここ数年でますます増えつつあるスーパーヒーローものの代表格だ。『アベンジャーズ』シリーズ完結編となるこの作品も、前作の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』と同様にとんでもなく野心的で、複雑に絡み合う過去の出来事すべてにこの1本で決着がつく仕掛けになっている。マーベルは11年にまたがる計21本の映画を、感動的でわかりやすい超大作にまとめ上げたのだ。オスカーに手が届くどうかは不明だが、サノスとの最後の戦いはさすがだった。
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『The Last Black Man in San Francisco』(原題)
失われていく町の歴史とアイデンティティ、ジェントリフィケーション、困難な状況において友情がもつ力など、さまざまなテーマを含む作品である。だが、究極的にはタイトルが全体をうまくまとめ上げていると言っていいだろう。
サンフランシスコのベイエリアは、かつて「西のハーレム」と呼ばれるほど黒人が多い地域だった。しかし開発が急速に進み、この町をサンフランシスコたらしめていた魅力はほとんどが消え去った。コンプトンズ・カフェテリアの反乱、同性愛者の権利擁護運動、ビート・ジェネレーションなどを生み出した空気は失われてしまったのだ。そこには、不動産ブームのせいで郊外に追いやられたジミー・フェイルズ(監督のジョー・タルボットとともに脚本を共同執筆したフェイルズ自身が演じている)と彼の家族も含まれる。
テック産業への直接の言及はないが、市内を走り回るIT企業の従業員のためのシャトルバスや大家とのやりとりの中身を聞いていれば、その影響は明らかだろう。作品をひと言で紹介するなら、フェイルズが市内のフィルモア地区にある祖父の家を取り戻そうとするが失敗する話だが、それは同時に自分の居場所を探し求める悲痛な旅の顛末でもある。フェイルズ本人の言葉を借りて言えば、「(サンフランシスコを)好きじゃないなら、嫌いにもならないだろう」ということなのだ。
『アイリッシュマン』
3時間29分というのは確かに長い。ネットフリックスがオスカーを狙いにいくことに対してはいろいろと意見もあるだろうが、ただ少なくともストリーミングであれば、途中でトイレに行ったりひと休みするために停止しておくことはできるわけだ。ついでに言わせてもらえば、アンナ・パキンはもう少しせりふがあってもよかった。
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それでも、マフィアの殺し屋フランク・シーラン(ロバート・デ・ニーロ)と彼の雇い主のジミー・ホッファ(アル・パチーノ)の生涯を描くこの作品には凄みがある。マーティン・スコセッシはその映画人生で学んだことすべてをここにつぎ込み、インダストリアル・ライト&マジック(ILM)の特殊効果がその完成を助けた。最後に、マフィアのボスの役で出演したジョー・ペシは、役者としてのキャリアで最高に近い演技を披露している。
『Booksmart』(原題)
オリヴィア・ワイルドがメガホンをとった女子高生コメディーは、過去何十年もの間につくられた数々の少年たちの友情をテーマにした青春映画にはかなわないかもしれない。だとしても、そんなことはどうでもいいのだ。勉強一筋の女子ふたり組エイミー(ケイトリン・ディーヴァー)とモリー(ビーニー・フェルドスタイン)が、高校生生活最後の夜にパーティーではじけようと悪戦苦闘する様子を描くこの映画は、おしゃれで心温まる作品に仕上がっている。そして、誰もが高校卒業前後のほろ苦い経験を思い出すはずだ。
『フェアウェル』
映画監督で脚本家のルル・ワンは、中国系米国人のビリー(オークワフィナがほぼ完璧に近い出来で演じている)が中国に住む祖母を訪れる物語を紡ぎ出す。今年公開された映画では、いちばん泣ける作品ではないだろうか。
彼女の祖母は実は末期がんにかかっているのだが、ビリーの家族を含め周囲の人々はそれを本人に伝えないことにする。映画のなかで描かれる嘘は、家族を結びつける一方で引き離しもする。登場人物たちは誰もが、人生に向き合うために嘘をついているのだ。全米で公開されたのは夏の盛りだったが、痛みと喜びにあふれたこの小さな作品は、夏休み向けの超大作で疲れた頭と体を十分に癒してくれた。
『アンカット・ダイヤモンド』
アダム・サンドラーが最後にコメディー以外の映画に出演したのはいつだっただろうか。ただ、本人はシリアスな役に取り組む準備はできていたようで、今回はニューヨークの腕利きだが家庭を顧みないギャンブル依存症の宝石商ハワード・ラトナーを演じている。
ラトナーが何度も究極の勝利や最悪の負けすれすれのところまで近づくのを観ていると、共感はできないが本当にハラハラさせられる。神経が張り詰める映画で、特に結末の意外さは今年の映画でも五本の指に入るだろう。
『X-MEN:ダーク・フェニックス』
これは冗談。ただ、あの優雅な手の動きは悪くなかった。
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December 28, 2019 at 11:00AM
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