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[本の森 ホラー・ミステリ]『卒業タイムリミット』辻堂ゆめ/『歩道橋シネマ』恩田陸(Book Bang) - Yahoo!ニュース

 青春ミステリの魅力がぎゅっと詰まったのが、辻堂ゆめ『卒業タイムリミット』(双葉社)である。

 卒業式を目前に控えた三月。欅台高校の教師、水口里紗子が誘拐された。監禁されているその姿が動画サイトにアップされ、同校の教師や生徒、あるいは世間一般が事件を知る。誘拐犯はその動画において、七十二時間後に里紗子を始末すると宣言した。動揺する生徒たちのうち、四人だけは更なる衝撃を受けていた。彼らには、誘拐犯らしき人物から個別に手紙が届けられていたのだ。「誘拐の謎を解け 真相は君たちにしか分からない」という手紙が……。

 まずは七十二時間というタイムリミットが作品に緊張感をもたらす。しかも、その七十二時間という設定が、卒業式が始まるまでの時間と一致している点も意味深で読書欲をそそる。そしてそのカウントダウンが進むなかで、里紗子が弱っていく様子が時折動画としてアップされ、それと並行して学園の――つまりは教師や生徒の――秘密が明らかになっていく展開も絶妙。また、この事件まであまり交流がなかった四人がチームとして結束していく様や、あるいは危機感のなかで親や教師との関係に変化が生じていく様は、青春小説としての味わいをきっちりと愉しませてくれる。ミステリとしては、ちょっとした、しかしながら十分に効果的な仕掛けがあるし、もちろん犯人が誰で動機は何かという謎もある。それに加えて、“なぜ犯人がこの四人を選んだのか”という新鮮な謎もある。それらの謎が鮮やかに解かれ、事件が着地し、そして人々が未来へと進み始める――そんな結末が青春ミステリらしくて実によい。

 もう一冊は、恩田陸『歩道橋シネマ』(新潮社)だ。“奇妙な味”というタイプの小説が好きな方にとっては、この一冊は、まさに宝箱。十八個の異なる魅力を備えた短編小説が詰め込まれているのである。映画『サイコ』のベイツ・モーテルのモデルとなったエドワード・ホッパーの絵画から語り手の個人的記憶につながり、それに関する謎が解かれるまでが流れるように語られる「線路脇の家」や、懐中時計消失事件の謎を追う「逍遙」、ある人物の奇妙な行動が終盤で理性的かつ冷酷なかたちで解明される「降っても晴れても」などのミステリ寄りの作品もあれば、一人称の語りが特徴的な「トワイライト」や、人間の想像力が無限だと感じさせる「楽譜を売る男」のようなコメディ色を帯びた作品もある。また、「皇居前広場の回転」「春の祭典」のように、ストーリーではなく一瞬の光景が印象的な作品もある。語り方の巧みな法螺話「あまりりす」も忘れがたい。他の短編を含め、読書の愉しみを満喫できる一冊である。扉頁を筆頭に、造本も素敵だ。

[レビュアー]村上貴史(書評家)
むらかみ・たかし 

新潮社 小説新潮 2020年2月号 掲載

新潮社

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February 25, 2020 at 06:00AM
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