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【書評】『あの本は読まれているか』ラーラ・プレスコット著、吉澤康子訳 特殊作戦の女性たち描く - 産経ニュース

 一冊の本が人生を変えたという話はよく耳にする。いや、それどころか世界を変えたという例もある。

 東西冷戦下の1950年代後半、まだ黎明(れいめい)期だった米中央情報局(CIA)はプロパガンダ戦略のひとつとして、本や音楽など芸術を武器にしようと考えていた。その一例が、反体制的だと見なされ、共産圏で出版禁止となっていた一冊の小説-ボリス・パステルナークの『ドクトル・ジバゴ』を、ひそかにソ連国民の間に流布させる特殊作戦だった。

 本書は、2014年になって初めて機密解除されたこの“事実”をもとに、作戦の陰で秘密を守り続けた女性たちを描いた、衝撃的なエンターテインメントである。

 当時のCIAの女性職員は、ほとんどが名門大学出身の才媛であったにもかかわらず、その大半がタイピストとして採用された。もちろん出世など望むべくもなく、多くの女性が差別やハラスメントを受けていたという。職場では、フラットな靴を履くことさえ禁止されていたのだ。だが、その中のごく一部の人間は才能を見込まれ、スパイの訓練を受けることになる。

 本書は、こうした名もなき女性たちの日々を描く一方で、ソ連側-パステルナークの愛人で『ドクトル・ジバゴ』のヒロイン、ラーラのモデルとなった女性の悲惨な運命も描かれていく。彼女は愛人であったがゆえに、シベリアの収容所に送り込まれ、地獄の苦しみを味わうのだ。

 彼女たちは、言ってみれば歴史の陰に生きた女性であった。では、彼女たちにとって歴史とは一体何だったのだろう?

 その疑問は『ドクトル・ジバゴ』の冒頭で、ある人物が語る「人間は自然の中に生きているのではなくて、歴史の中にこそ生きている」という言葉に繋がるような気もする。ジバゴとラーラの物語は激動する時代のさなかで、歴史とは何か、その中で生きていく意味と意義とは何かを、ひたすら問い続けたものだったからだ。その上で、愛の形、愛の物語をうたったものだった。本書に描かれる特殊な“愛”の物語もまさにそこに繋がる。だからこそ、ラストの余韻が深く心に残る。(東京創元社・1800円+税)

 評・関口苑生(書評家)

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May 10, 2020 at 12:20PM
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