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空を見上げる営みから 井上裕之 - 西日本新聞

 昨今、この言葉が陳腐に聞こえ、違和感を覚える、という人は少なくないだろう。

 「過去に経験したことがないような大雨の恐れ」「数十年に一度の災害の危険」…。気象庁が大雨特別警報を出す際に使う表現のことだ。

 大規模な水害は近年、九州では数年置き、列島全体では毎年のように続く。悲惨な光景は私たちの目に焼き付き、もはや「経験がない」「数十年に一度」という言葉には現実と乖離(かいり)した響きがある。

 温暖化に伴う気候変動は今や常態化し、被害の規模は年々拡大している。その深刻さをどんな表現で伝えていくか。気象庁も思案している。

 先月発表された「気象業務はいま2020」(気象白書)は災害の激甚化に関する特集を組んでいる。昨秋の東日本豪雨などでは、気象台の危機感が住民に十分に伝わらなかった、と振り返り、警報の発表や解除の在り方、表現の改善などを課題に挙げている。

 今回の九州豪雨でも、そうした検証が必要だ。ただ、私たちが気象台や自治体任せの防災から脱し「自らの命は自らが守る」という意識も欠かせない。その意味で素朴に提起したいことがある。

 小さい頃から自然に接し、雲の流れ、風向き、川の音、土のにおいなどから、天気の変化や季節の移ろいを感じ取っていく-。一言で表すなら「空を見上げる習慣」を子どもたちに根付かせる営みだ。

 小学校の高学年から理科の授業で気象に関する基礎的な知識は習う。けれども、情報技術(IT)社会の今日、天気といえば、外を見るのではなく手元のスマートフォンで予報をチェックして終わり、という暮らしが広がる。

 気象アプリは便利だ。カラフルな図表で空模様を瞬時に映し出す。それが錯覚も生んでいる。気象観測技術の発達は著しいようで、実はまだまだ大気の流れを捉え切れていない。故に豪雨の兆候は容易につかめないのも実情だ。

 空を眺めても天気の行方が直ちに分かるわけではない。しかし、人が自然の中で生かされた小さな存在であることを実感したり、古里の地形や気候を知るきっかけになったり、関心の裾野は広がる。それが災害の怖さへの想像力や防災の意識を培うことにもつながるのではないか。

 「災害列島」と形容される日本。だからこそ、気象への造詣が深い国民性を育み、地球規模で進む気候変動と向き合う専門家も輩出していく。そんな発想があってもいい。何よりも今、目の前で広がっている災害の光景そのものを胸に刻んでおくことが重要だろう。 (特別論説委員)

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July 14, 2020 at 09:00AM
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