JR国立駅は、周辺に一橋大学、東京女子体育大学、国立音楽大学付属中学・高校などがあり、環境に恵まれた文教地区として知られている。学生が多いこともあり、駅周辺にはいくつもの書店が存在している。
2019年3月、ひとつの書店が新たに仲間入りした。有路友紀さん(25)が一人で営む「ほんのみせコトノハ」だ。国立駅南口から富士見通りを約5分歩いたところにあり、開いた本が描かれた看板と青い扉が目印だ。
新刊書店ではあるが、扱う本に共通点がある。それは何かの形で「本」に関連しているということだ。約3000冊ある本は、ブックガイド、小説の書き方、出版業界や書店について考える本、書店員のエッセー、作家や編集者、出版社が登場する小説や漫画などさまざま。本や出版にまつわるものがこんなにたくさんあるのか、と驚かされるほどだ。
「街の本屋さんはセンスと何らかの特色が必要と思いました。そこで、“本の本”の専門書店にしたんです」
さぞ有路さんは筋金入りの本好きなのだろうと思いきや、実は幼い頃から水泳一筋で、本や漫画はほとんど読まなかったという。中学時代に足ひれを付けて泳ぐフィンスイミングと出合い、日本代表にも選ばれた。しかし、大学2年生の時に引退。選手時代の経験を生かして選手をサポートする立場になりたいと、体育会水泳部のマネジャーになった。しかし、厳しい縦社会のような環境になじめず、次第に息苦しくなっていったという。
「マネジャーは選手のサポートとはほど遠い運営の仕事が中心で、人間関係もうまくいかなくなり、限界を感じて4年の夏にマネジャーを辞めました」
心身ともに疲弊しきっていた有路さんの支えとなったのが、現実を忘れさせてくれ、元気がもらえる本や漫画だったという。やがて、本や漫画に関わる仕事をしたいと思うようになり、出版社の編集者を目指すことを考えたが、新卒採用は既に終わっていた。
それでも、少しでも本に近い仕事をしてみたいと有路さんが選んだのは、ショッピングセンター内にある中堅書店でのアルバイト。月曜から金曜まで毎日7時間働き、1年後には文庫本担当として棚作りや発注などの業務も担うようになった。並行してツイッターの書店員アカウントを個人的に作り、他の書店員や出版関係者、作家などとの交流も始めたという。
書店で働くうちに、本を作るよりも本をどう売るかなど、商売のことを考える方が好きだということに気づいた有路さんは、いきなり独立して自分の店を作るという大胆な決断を下す。両親には反対され、交流のあった取次の人にも「無理」と言われた。
「性格があまのじゃくなので、だめだと言われると逆に決意が固まりました。それに、水泳部という組織にいた時の精神的なきつさがあったので、一人でやるほうが自分にとってもいいと考えました」
決意から半年後、有路さんは本当に店をオープンさせてしまった。SNSなどを通じて交流のあった作家や出版関係者の人が店に遊びに来てくれ、近所の客も少しずつ増えているという。
「書店が大変なのはわかっていましたが、正直なところ、ここまで厳しいとは思いませんでした。厳しさのレベルが違います」
店を少しでも長く継続させるためにできることを考えた有路さん。カフェコーナーの設置もその一つだが、書店の責務は本を売ること。そこで、遠方の人にもアプローチできる「選書サービス」を開始した。
これは、予算を伝えた上で、店のサイトから「これまでの人生をそこそこに振り返ってみてください」「『ひとつだけ、何でも買ってあげるよ』と言われたら何が欲しいですか?」「他人に言われて嫌な言葉はありますか?」といった質問項目に答えて送信すると、有路さんがその人に合った本を選んでくれるというものだ。選書は1冊からでも可能で、選書代は無料。店頭受け取りか郵送(別途500円)を選ぶことができる。
「私は“貢ぎ症”なところがあって、誰かへの贈り物を考えるのが好きなんです。アンケートから本を選ぶ時は、学んできたスポーツ心理学も生きています」
私も予算5000円で選書を依頼してみた。アンケートはすぐには思いつかない項目も多く、時間をかけて書き込み、送信した。数日後、有路さんから本のリストがメールで送られてくる。既読のものや興味を持てなかったものがあれば差し替えてもらえる。
初回のリストは、既読のものもあったが、読みたいと思いつつ買いそびれていたものもあり、「自分だったら選ばなそうだけど、ちょっと読んでみたいかも」と思わせる、絶妙な選書だった。これが本代だけなんて申し訳ないと思うほど、面白い体験だ。
後日、本を受け取りに行くと封筒入りの手紙も渡された。直筆で書かれた手紙には、私に語りかけるように、丁寧にそれぞれの本の内容とおすすめポイントが記されていた。
有路さんは積極的に会話を交わすというよりは、物静かなタイプ。手紙もシンプルな文面ではあるものの、「いい本と出合えますように」と思いながら選んでくれたであろう有路さんの気持ちが行間からしっかりと伝わってきた。
読書で救われた経験がある有路さんだからこそ、新たな読書体験のきっかけになる選書に込めた思いは、特別なものなのだろう。そんなことを勝手に想像しながら、わくわくした気持ちで表紙をめくる喜びを味わうとしよう。
■おすすめの3冊
『図書館の魔女』(著/高田大介)
史上最古の図書館に暮らすマツリカに仕えることになる少年。「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声を持たない少女だった――。第45回メフィスト賞受賞作。「これは私が学生時代に買った小説です。著者は言語学者ということもあり、言葉の使い方が巧み。手話も出てきます。ファンタジーと思わせてそうではなく、言葉や本とは何か、ということが感じられる壮大な物語です」
『図書館の大魔術師』(著/泉光)
シオという少年は本が大好きだったが、耳長で貧乏だったため、村の図書館が使えなかった。彼は差別が存在しない本の都・アフツァックに行くことを夢見る。ある日、アフツァックの図書館で働く司書・カフナと出会う。異世界ビブリオファンタジー。「本を守るために活躍する王道のファンタジー漫画ですが、図書館や本のありかたなど、本に関するさまざまな要素が含まれていて、読み応えがあります!」
『の』(著/junaida)
「の」はいつも、ことばとことばのすきまにこっそりいます。でも、ふだんは目立たない、この「の」にまつわる、終わらない旅。「これは、『わたしの お気に入りのコートの ポケットの中の……』と、“の”でどんどんつながっていく絵本です。絵がとても素敵で、個人的に大好きな一冊です」
◇
ほんのみせコトノハ
東京都国立市中1-19-1 2F
https://kotonohabookcafe.com/
(写真・山本倫子)
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