大阪の中心部を流れる堂島川と土佐堀川に挟まれた中之島公園に、子どもたちが本と出会い、本を楽しみ、本に学ぶ施設となる「こども本の森 中之島」がオープンした。建物を寄贈したのは、設計も手がけた建築家の安藤忠雄だ。
「本に囲まれた迷宮、本と巡り合う場所。何度も通いたくなる場所を目指しました」と安藤は施設のコンセプトを語る。5つの臓器を摘出するほどの大病を患った安藤は、療養時にふたたび本と親しむ時間をもつようになったことから、未来を創る子どもたちのために本と出会う場をつくりたいと考えるようになった。奇しくも近くにある大阪市中央公会堂は、かつて株式仲買人の岩本栄之助が建設費を寄付して生まれた建物だ。明治以降、大阪の文化的中心地を担ってきた中之島に、安藤は「次なる物語の聖地」をつくりたいと願いを込めた。
通常の図書館と異なり、「こども本の森 中之島」は本を借りて帰ることができない。しかし市民らの寄贈を含む蔵書1万8609冊(2020年7月現在)におよぶ多種多様な本を、館と公園内で読むことができる。壁全面が本棚で覆われた三層吹き抜けの空間は、すべて子どものための閲覧室だ。大階段に腰を掛けてもいいし、階段裏や書棚の合間に生まれた小さなスペース、窓際のソファ、そしてエントランスポーチにつながる川沿いのテラスなど、どこでも好きに読書ができる。館内だけではなく、公園に本を持ち出して楽しむ仕組みをつくることで中之島公園の一帯を「本の森」にしようというのが、安藤のコンセプトだ。
同館でクリエイティブ・ディレクションを担当するのはブックディレクターの幅允孝。幅は図書分類法のNDC(日本十進分類表)やUDC(国際十進分類法)を参考にしながら、その分類にとどまらない本との出会いを企図したという。「背筋を伸ばして本を読むというよりも、子どもが自然と読書に入り込めるものにしたかった」と話すように、自然、身体、動物などに加え、「こどもの近くにいる人へ」という保護者に向けた書棚を含む12テーマを用意する。
「新しい本の場所として、子どもに本をしっかり届ける仕組みから考えました。既存の分類で背表紙に数字を振っても、子どもに本の声を届け、投げかけることは難しい。図書館ではないからこその自由度を活かし、テーマから自発的に関連性を見つけられる場を目指しています。利用者を子ども扱いせず、図鑑やビジュアルブック、外国語の書籍を含め、未知との出会いを生む本を揃えました。シンギュラリティ(人工知能の能力が人類の知能を超える技術的特異点)が訪れるとされる時代に、人の心に深くささっていく芯のある本を。たくさんの本よりもいい意味でつまずく一冊との出会いを生み出したいと思っています」と幅。
本との出会いおいても、新たな取り組みを行った。書棚の一部には、本の中から印象的なアフォリズム(短文)を抽出した立体文字の『言葉の彫刻』を設置。安藤建築の醍醐味を味わえる円筒状のスペースには、ライゾマティクスデザインによるプロジェクションマッピング『本のかけら』が流れる。物語の断片が、彫刻となって、アニメーションとなって、子どもたちを物語へと誘う。
今回、館のクリエイティブはすべて安藤の建築を起点にしている。ロゴなどに用いる緑はエントランスポーチに設置された青りんごのオブジェから採用され、色も建物の白やグレートーンを基調としている。安藤自身も足繁く現場を訪れ、選書のプレゼンテーションはもちろん、館内の家具や制服の選定まで参加し、アドバイスを行っていったという。
壁一面の均一な書架に当初、戸惑いもあったという幅は、オープンを迎えてこう振り返る。
「曲面を描く書架もあり、本が置きにくいのではないかと不安もありました。しかし本を置いてみると独特の雰囲気が生まれ、安藤建築の凄みを感じました。安藤さんは、この場を次の時代を担うリーダーを生み出すきっかけにしたいと話しています。人と本の距離が離れていく時代に、子どもたちに一冊の本を差し出す場。たった一冊でもいい……子どもたちに光り輝く本を見つける場になってほしい。他ではできないことを大阪から発信しようとする場です」
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August 19, 2020 at 10:00AM
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物語と繋がる「本の森」は、安藤忠雄から子どもたちへの贈りもの。 | News - Pen-Online
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